昨年のものはこちらにあります。今年も、PTA会長として挨拶をしてきました。子どもたちの大事な日に、何かを伝えられるかもしれないというのは貴重な機会でした。そんな聴衆、なかなかいないですよね。
というわけで、以下が祝辞の全文です。
祝辞
本日の卒業式にあたり、PTAを代表いたしまして、お祝いの言葉を述べさせていただきます。
本日はご卒業おめでとうございます。
ご来賓のみなさま、地域のみなさま、本日はお忙しい中、ご臨席を賜りましてどうもありがとうございます。
校長先生をはじめ、諸先生方には日頃から、子どもたちを優しく、厳しくご指導いただき、本当にありがとうございます。
(卒業生のお名前)、ご卒業おめでとうございます。いろいろ考えて来ましたので、大人の一意見として、聞いてみてください。
昨年の卒業式でも、今日と同じように、私はここで挨拶をしました。その時は、みなさんの寿命は何歳なのかという話をしました。
はい、そうです。みなさんは病気、事故なく生きていけば、100歳まで生きることになります。22世紀を、大変元気に迎えることになります。そんな未来の話もしました。そして、未来の世界の様子は分からない、ということも言いました。
もうすぐ実現する自動運転、月に秘密基地、人間の形をしたロボットのサッカーチームが人間に勝つ、3Dプリンタで家や町を作る、火星に人間が住み始める、、、そんな世界がどうやらやってきそうだということです。
日本や世界はどうでしょう?
日本は、高齢者が増えて、子どもたちの数が減っていて、人間の数がどんどん減っていきます。政治や経済のことを考える人たちは、人口が減っていくことをとても心配しています。人が減ると、働く人もものをやサービスを買う人も減るので、経済が小さくなっていくという心配です。
世界では、国と国の境目がなくなり続け、これまではバラバラに暮らしていた人たちの、異なる文化、異なる言語、異なる宗教や考え方が、どんどんどんどん混じり合っていきます。これは、歴史上初めてのことなので、何がどうなることやら分かりません。
そうした未来の世界を迎えるにあたって、私たちが知っていることはとても少ないです。ただ、確実にわかっていることが一つあります。それは、「私たちには未来の技術や社会や人間のことは、分からない」ということです。分からないんだ、ということだけが分かっています。この分からなさのことを、不確実性と言います。
そんな不確実な世界を迎えるにあたって、私たちはどう生きればよいのでしょうか?
私は、変化を楽しむということだと思います。変わることは面倒くさいですし、時間も体力も使います。お金もかかることでしょう。でも、新しいことができるようになったり、新しい考え方ができるようになるということは、面白いことでもあります。これから85年間の間、5年毎に大きな変化を体験すると考えると、みなさんは人生で17回の大変化を仕事や家族や生活で起こしていくことになります。恐れずに、やっていきましょう。
どうすれば怖がらなくて済むのか。どうすれば、変化を楽しめるのでしょうか?私が、東京で働いていた頃、もう10年以上前ですが、島根県の隠岐郡というところにある海士町という島で暮らす友達がこう聞きました。「西川くん、最低限生きていくのに必要なお金ってどのくらいだと思う?」僕は、子どもたちの教育費のこと、保険のこと、東京の家賃のこと、携帯料金やら色々のことを考えて「毎月20万円、いや、毎月15万円あれば、家族で暮らせると思う」と答えました。すると僕の友達は「いやいや、5万円をタンスの中にしまっておいて、それを僕たちの島までの交通費と考えれば、それだけでいいよ。島に来れば食べるものや仕事や寝泊まりする場所はあるから」と言いました。
生きるということは、何も家賃12万円のアパートに家族で住みながら、携帯の料金を5人分払って、受験をして、時々映画を見たり本を買ったり外食をしたり、ということだけではないということを教わりました。それは、この2010年のころの、東京に住んでいた25歳位の僕にとっての生きることの定義だったのかもしれません。そんなこんながあって、私は家族でバンコクへ引っ越し、イギリスの会社で働きながら、男木島で暮らすということになっています。不思議なものです。
これから85年のことなんか、やっぱり誰にもわからないということだけが分かっています。そして変わり続ける、不確実な世界で楽しく生きる秘訣は、私たち自身が変わり続け、不確実であり続けることです。でも、結局はそれが一番楽です。世界やルールが変わっている中で、自分が同じままだったら大変なんです。
変化を受け入れるということは、変化を受け入れて自分も変わっていくということです。覚悟や工夫が必要かもしれません。でも、それが一番楽で、楽しい方法です。そして、そのときに「タンスに5万円あれば別に死にはしない」そして「なんとなったら帰れる島がある」ということが、支えになってくれると思います。気楽にやれるといいですね。
ところで、変化は、変に化けると書きます。自慢ではありませんが、私も変だ変だと言われます。そしてそれはとてもいいことだと思っています。これからの変化し続ける世界では、最初から変わったところがあるというのは、実はお得なことです。自分の中で、人とは違うことを探していきましょう。ぜひ、「やってみなくちゃ分からない」の精神で。
男木島をいつか出ていき、でも、帰って来られる場所があって、そのことを支えにしながら、広い世界、しかも変わり続ける世界で、のんびりと楽しく暮らしていただければと思います。僕も寿命があと50年くらいあり、変化のタイミングが10回くらいはあると思いますので、一緒に頑張りましょう。
今日は卒業式という人生の節目ですから、未来の話をしてみました。あらためまして、おめでとうございます。これで挨拶を終わります。
令和2年年3月13日
高松市立男木小中学校PTA会長
西川伸一